大正十二年マキノ等持院作品
(大正十二年十一月三十日不二館封切)
原作・脚色: 寿々喜多呂九平
監督: 沼田紅緑
撮影: 橋本左一呂
〈配役〉
盗賊・平次・・・市川幡谷
向見ずの仙吉・・・高木新平
不死身の三太・・・市川玉太郎
望月小十郎(後に三左衛門)・・・片岡市太郎
粕谷桃之介・・・阪東妻三郎
粕谷左門・・・市川省紅(後の阪東太郎)
お咲・・・森 静子
お美津・・・田中嘉子
飴売り徳太郎・・・市川小蝦(後の井上潔)
仲間・・・中村東鬼蔵(後の月形龍之介)
徳太郎役の市川小蝦は後に井上潔と名乗って人気少年スターとなり、さらにマキノ潔、春本富士夫と改名している。又、高木新平とは俳優養成所時代からの同僚である月形龍之介が未だ中村東鬼蔵を名乗って端役出演している。
当時の映画雑誌に掲載された批評には「可憐な孤児で無邪気で神のような心に、悪徒が改心するのは一寸小公子あたりからヒントを得たらしいが、全体を通じて見物をホロリとさせて、しかも清新な内容なのは、マキノ時代劇として佳作だろう」とある。
〈略筋〉
徳太郎は亡き母に教わった唄をうたって飴を売り歩きながら未だ見ぬ父を尋ねて流浪の旅を続けていた。その道すがら盗賊の平次、仙吉、三太に出会うが、彼らは徳太郎の純真な心に感化され、いつしか一緒に飴を売り歩くようになった。ある日、その唄声を耳にして、剣道指南役の望月三左衛門はハッとした。その唄にあるお美津こそ、未だ忘れ得ぬ小雀峠で愛し合った乙女だった。三左衛門は徳太郎が我が子とわかると侍の子として一緒に暮らし始めた。しかし、家中の人々には飴売小僧と侮辱され、幸福な日々とは云えなかった。徳太郎と共に引き取られた平次達にも悔しさが募った。そして遂に上司粕谷桃之介の倅左門を、平次は殺してしまったのである。徳太郎を庇い、罪を犯し、後悔し、ひとり旅立つ平次を優しく見送る父と子の姿があった。