己が罪作兵衛
1930年 松竹蒲田撮影所作品 上映時間21分
原作・・・菊地幽芳
脚色・・・柳井隆雄
監督・・・佐々木恒次郎
撮影・・・猪飼助太郎
〈配役〉
作兵衛・・・・井上正夫
環・・・・・・竜田静枝
環の父伝三・・武田春郎
桜戸子爵・・・小林新一郎
塚口虔三・・・奈良真養
玉太郎・・・・菅原秀雄
正弘・・・・・山川真砂夫
お光・・・・・月岡初子
小間使・・・・松井潤子
〈略筋〉
地方の豪農の娘で東京の女学校に学んでいる箕輪環は、女たらしの医学生の塚口虔三にだまされもてあそばれ、棄てられる。塚口は海外に去り、環は投身自殺を試みるが漁師の作兵衛に救われる。そして作兵衛の家で子どもの玉太郎を生む。作兵衛はこの子を引きとって自分の子として育てる。
歳月が過ぎて・・・・。環は桜戸という子爵と結婚して正弘という子も得て幸福に暮らしている。ある日、作兵衛は、実の母親を慕う玉太郎を連れて東京にやってくるが、環に会うことをことわられて千葉県の村に帰る。その年の夏、環が正弘を連れてこの村に避暑にやってくる。そしてある日、正弘が溺れようとしているのを玉太郎が助けようとして二人はともに死ぬ。二人の遺体の脇に、作兵衛と環と、そして医者として呼ばれた塚口が集まる。そして彼らは、二人の少年が兄弟だったことを知るのである。
〈解説〉
1910年代から1920年代の日本で、もっとも人気があった映画のタイプのひとつに新派悲劇と呼ばれるものがある。悲劇的な恋愛のメロドラマであり、同時代のヨーロッパやアメリカの通俗的な演劇や小説の影響を強く受けたものである。1899年に発表された菊地幽芳の小説「己が罪」は舞台劇化されて新派悲劇の代表的な演目のひとつになり、繰り返し何度も映画化された。もともとはヒロインの箕輪環を中心にして展開される物語であるが、舞台版のひとつで名優井上正夫が漁師の作兵衛を演じ、これが非常に評判になったことから、むしろ作兵衛に重点をおいた物語に作り直したのがこの「己が罪作兵衛」である。
(解説−佐藤忠男)