悪魔のように抗い難い魅力に満ちたヒロイン像は、ファン心理の奥底にある「美しいものに拝跪したい、と同時に美しいものが滅ぶのを見たい」という贅沢な欲求の投影か?ガルボだからこそ、巧まずして表現できたヒロイン像である。原作は、ドイツの作家で、名作「サンライズ」の原作者でもあるヘルマン・ズーデルマンが一八九三年に発表した「消えぬ過去」。
これを映画的に大胆に脚色したのが、「第七天国」(一九二七年フランク・ボーゼイジ監督)の名脚本を書き、ガルボの「マタ・ハリ」の脚本も書いているベンジャミン F. グレイザーである。
監督は、自動車業界から映画界へ転進した異色の経歴を持つクラレンス・ブラウン。温厚なブラウン監督はガルボとウマが合ったようで、「ガルボは、ことさらな動作、身振りに頼らず、相反する感情を同時に表すことができる。彼女の眼が語るのである」とその鋭い直感力に支えられた演技を称えている。「恋多き女」「アンナ・クリスティ」「ロマンス」「インスピレーション」「アンナ・カレニナ」「征服」と、この後も何本もガルボ作品を演出しているが、「燻ゆる情炎」「鵞鳥飼う女」、ヴァレンチノ主演の「荒鷲」等、他にも佳作がある。撮影を担当したウィリアム・ダニエルスは、ガルボ映画を多く手がけた名手だが、その前は「愚なる妻」「グリード」他、E. V. シュトロハイム監督作品を撮り、高い評価を得た。
(略筋)
レオとウルリッヒは親友同志だが気質は正反対。知性的なウルリッヒに比しレオは直情型であった。
レオは、伯爵の妻フェリシタスと情を交わし、これを知った伯爵はレオに決闘を挑み、命を落とす。レオは罪悪感からオーストリアを離れアフリカへ向かう。
こうした事情を知らぬウルリッヒは、未亡人となったフェリシタスと結婚。数年後、レオが帰国するとフェリシタスと愛が再燃、悲劇が起きる。