同誌に掲載された鈴木重三郎氏の批評も本作品を絶賛しているので、以下に抜粋紹介しよう。
〔ロイド喜劇の持つあらゆる長所を打って一丸にした先づロイド喜劇傑作中の傑作といっても過言であるまい。八巻といふ喜劇にしては空前の長篇を些のゆるみもなく観客を引張って行くところ、いつも乍らフレッド・ニューメイヤーとサム・テイラーの頭の良さに感服の他はない。「恋愛の秘訣」の各章に現はされる各種の女性の解剖も痛快皮肉を極むれば、後半の馳せ付けの技法も、下手な連続や活劇に優ること数等、殊に電車の使ひ方は感嘆の他なし。最後に、笛を吹いて新婚旅行の汽笛を思はせ以心伝心に抱擁するところ等は全編を生かしてゐる。あのYesといふ字幕に何んとも云はれぬ妙味がある。ロイドのへらへら笑いといって嫌ってゐた人も本映画を見れば必ず好きになるに違いない。〕
ロイド夫人となったミルドレッド・デイヴィスに代わり、前作『巨人征服』より、テネシー生まれのジョビナ・ラルストンが相手役を務めている。まだ二十歳になるかならないかの瑞々しさである。
(略筋)
洋服屋の伯父の家に年季奉公で勤めていたハロルドは、女性が大の苦手で、女性を見ると顔は真っ赤で火事の如く、声は喉につまって吃ってしまい、なんでそんなに恥ずかしいのか、自分でも不思議で堪らないのであった。そこで、仕事の合間に女性に対する研究をすることにした。研究に没頭するハロルドは、遂に「恋愛の秘訣」という大著述を完成させたのである。そこで早速出版社へ交渉に行く。途中、列車内で可愛い小犬を連れた美しい女性、メアリーと知り合いになったのだが、著述の効果はいかばかりか……。
数日後、届けた原稿の様子を聞きに出版社をたずねると、多勢の女事務員たちに、「恋愛の秘訣」の作者来たる!とばかり大歓迎されて縮み上がったが、社長から出版の見込みなしと云われてガッカリ。外に出るとメアリーが待っていた。喜びもお預け、本が売れなければメアリーと結婚出来ぬと思ったハロルドは、愛する娘に心にもない嘘を吐いて別れて行くのだった。
その後、ハロルドの「恋愛の秘訣」は、思わぬ展開を遂げたのである。出版社からハロルドの許に手紙が届いたが、彼はてっきり断り状だと思い込んで破り棄ててしまった。ところが、それは三千ドルの小切手で、著作権料の内金と判ったのだが、それと同時にハロルドに失恋したメアリーが、ほかの怪しい男に騙されて、今日結婚するということを知ったのである。
俄然、奮起一番ハロルドはメアリーのもとへ―。自動車、オートバイ、電車に馬車、ありとあらゆる乗物を手当り次第に乗り継いで、猛進、猛進、また猛進―漸く、裸馬にまたがったハロルドがメアリーの結婚式場に馳せつけ、見事彼女を救ったのであった。そして…