全三篇で二十四巻になる作品であるが、残念ながら残されたフィルムはその十分の一にも満たない。
勤王志士の活躍と裏切者に対する復讐、この間に女賊、芸妓、美女が絡まり、幕末大活劇と呼ぶに相応しい娯楽映画であり、当時の批評でも「観客はその痛快さに我れを忘れて手に汗を握らされる」「その面白さは如何なる人をも喜ばせるに足りる」と絶賛された。
河部五郎の桂小五郎は、正にはまり役であり、大河内の左橋與四郎は原作にはない見せ場を得て、作品を大いに盛り上げている。また、芸妓幾松も原作には登場しない人物で、本作品の成功は池田富保の脚色に拠るところが大きい。
(略筋)
元治元年七月、京都では開港攘夷が沸騰して騒乱の巷と化した。因州藩の老職城戸重蔵は、会津討伐で長州藩に加担すると約し乍ら、裏切って密告した為、長州藩は惨めな敗北を遂げた。蛤御門の変である。長州藩士桂小五郎は、城戸を討つべく機会を狙っていた。城戸は多数の剣士に身を守らせ、目明し隼の金助に桂の所在を捜査させた。その頃、龍の桂に対して長州の虎と云われた佐橋與四郎が三条畔で桂の恋人幾松を捕手から救った。数日后城戸邸に潜入した桂は、今や恨みの一刀を下さんとした時、城戸の娘夏繪に妨げられ、白河の仙太の許に隠れるが、金助の妾天人お吉に知られ、御用十手に包囲された。危機一髪の処、佐橋等の来援で難を逃れた。一方女乗物で密かに邸を抜け出した城戸は、遂に覆面の佐橋に斬られるが、巷では下手人は桂と噂され……