原作者の吉屋信子は、幼時からのキリスト教信仰によって培われた理想主義が作品に貫かれており、少女小説、家庭小説や随筆等で新境地を開き、女性読者を中心に支持を受けた人気作家である。出世作となった連作「花物語」は「少女画報」で大正五年から長期に渡って連載され、他にも「良人の貞操」「安宅家の人々」「徳川の夫人たち」といった代表作がある。
(略筋)
ある村の村長一家は、村役場に勤める息子・満雄とその妹・薫、そして秘蔵の“福寿草”の世話に明け暮れる祖父の四人でのどかな毎日を過していた。やがて、満雄に嫁を迎える事になり、前にも増して幸福な日々が訪れた。
だが、福寿草の大好きな祖父が亡くなると次第に家運は傾き、満雄が株に失敗すると、もはや豪家も没落の一路を辿り、病がちな嫁は実家に引き取られてしまった。
父と満雄は、再起を賭けた新天地を求めて満州へと旅立った。一人残された薫は、寄宿舎生活となった。そして、恒例の卒業記念バザーが近づき、何も持たない薫は、思い悩んだ挙句、何とあの“福寿草”を出品したのだった。しかも手放したくない一心から、百円という高値をつけた。だが、バザー当日、その“福寿草”を求める美しい女性が現われた・・・