夏川静江の映画デビュー作は帰山教正監督の『生の輝き』(十八年)であり、伊藤大輔監督の『日輪』(二十六年)では主演もしているが、その頃は舞台俳優としても活躍しており、本格的に映画俳優として歩み始めたのは、二十七年の日活入社以降である。阿部豊監督の『彼をめぐる五人の女』で入社第一作を飾った夏川静江は、岡田嘉子と竹内良一の失踪事件により、急遽、村田実監督『椿姫』に東坊城恭長と代役に起用された。作品は不評であったが、岡田嘉子を失った日活にとって、夏川は欠くことの出来ない存在となった。本作品はそうした状況下で製作されている。
(略筋)
名整調手として高校時代活躍した望月は、AL両大学からスカウトされるが、親友の林と共にあっさりA大学漕艇部への入部を決めた。対校競技のある毎にその機密を探っては相手方に売って生活している銀座の紳士等がいた。ふとした事から彼らを懲らしめた望月は、学長富ノ沢やその姪美津子の信望を得る事になった。だが執拗な彼らは今度の大会にA大学の機密を探し、望月をも陥れようとした。或日、美津子は叔父の許しを得て望月を誘って散歩に出た。丁度それを目撃した彼らは二人の写真を撮って悪事を企んだのである。全校挙げての必勝会の席上、学長のもとに一通の手紙が届いた。やがて一言の弁解も許されず望月は、漕艇部を除名されたのである。試合当日、望月の抜けた不安は隠せない。そんな時、美津子が彼らの計略を見抜いた―