ツバメ映画社は元老監督であり、本会創立時の顧問であった吉野二郎監督によってこの年に設立されたもので、当時のキネ旬によれば「教育、宣伝、家庭映画、俳優連鎖劇その他の事業を行う」とある。フィルムにスタッフ・タイトルが残っていないので確証はないが、監督も吉野二郎が担当したものと推測される。
定五郎役の浮田勝三郎は、阪妻プロを振り出しに、右太プロ、富国映画、日本映画プロなどを渡り歩き、大都映画では数多くの作品に出演している。
原作の大河内翠山は、大正から昭和初期にかけて活躍した講談作家であり、主な作品には「竹内加賀之助」「二人権三」などがある。なお、大学紛争期に東京大学の学長を務めた経済学者・大河内一男氏は、翠山の子息である。
〈略筋〉
徳川も末の頃、ある城下に近い在方に、健気な少年馬子の姿があった。
父の馬方・宗兵衛は、病に倒れ、一年余りの長患いに其日の生計にも困る有様となってしまった。さらに、姉のお米は目が見えない。そこで、幼い萬造が父に替わって稼ぐしかなかったのである。孝行息子の萬造は少年馬子として評判になった。だが然し、幼い萬造の稼ぎではどうにも追い付かず、薬代や借金が増えるばかりであった。家主の佐兵衛は冷酷無情で、病人の布団まで取上げようとする。その頃、鬼の定五郎と呼ばれる乱暴者の馬方が、何処からともなくこの村に流れてきた。だが、親孝行な萬造の心根に触れると、定五郎は今迄の自分を悔い、改心するのだった。そして、萬造親子を助けて、今日も萬造と二人、馬を引いて行くのであった。